こなごころ

きもちをつづるばしょ

セクハラ問題の一部始終

今は昔、会社の同期入社した子と付き合っていた時の話。

 

付き合い始めて1ヶ月ほどした頃、彼女に「大事な話がある」ということで呼び出されたことがあった。

ひえぇ、こいつは間違いなくろくな話じゃないな。

俺が何かマズいことを言ったか、あるいは会社を辞めたいとか、最悪別れ話か……。

胸いっぱいに不安を抱え、会社帰りに待ち合わせ場所のファミレスへ。

 

"大事な話"の内容は予想外のものだった。

彼女が話してくれたことをまとめるとこうだ。

 

なんか(俺の)上司からLINEでサシ飲みの誘いがよく来る。

それで根負けして、俺に黙って一度その上司とサシ飲みしてしまった。

そこで高級な香水をプレゼントされた。

それからというもの、上司からLINEのメッセージが大量に来るようになった。

友達に相談してみたら、「それセクハラだよ!」って言われた。

 

ほえー。マジかー。

しかし思い返してみると、確かに最近何かにつけて上司主催の飲み会やカラオケの誘いがあった。

彼女に対して妙にフレンドリーだったけれど、たぶん娘のような感覚なんだろうと思っていたのだが。

まさか、下心があったとは。

 

ちなみに上司はバツイチ子持ちの50代のおっさんで、上司の娘は俺や彼女と同年代である。

毎日のようにポケモンGOの自慢話をしてくるため、少々鬱陶しい。

が、社内では技術屋として指折りの人材であり、社長にも遠慮なく物申せる古株でもある。

 

念のため、彼女のLINEの内容を見せてもらうと、確かに明らかに好意のあるメッセージが上司から現在進行形で来ていた。

というか内容が絶妙にキモい。(男の俺でも普通に引くレベル)

ポケGOのどうでもいい報告もかなりある。

これがすでに50件ほど未読になっているにもかかわらず、送信され続けている。

 

やべえ。コイツはやべえ。

ストーカーになりかねない。

何か手を打たねば。

 

まず、LINEのブロックだ。

総務のおば様にも相談しよう。

事態が悪化したら、俺も部長にかけあってみる。

 

ということで話はまとまった。

彼女は俺に黙ってサシ飲みに行ってしまったことを謝ってくれたが、俺は彼女に「話してくれてありがとう」と言っておいた。

 

 

 

後日、飲み屋にて相談会を開いた。

メンツは俺と彼女と総務のおば様だ。

 

事の経緯はすでに話してあったから、どちらかというと彼女のメンタルケアが目的の相談会だ。

付き合っていることは内緒だが。

 

総務のおば様によると、実は上司には前科があったようだ。

もう辞めてしまった子だが、その子が会社から帰るのを待ち伏せて、車で送ろうとしていたらしい。

それが原因で辞めたわけではないとは聞いたが……真偽は定かではない。

 

というわけで、会社の行き来はなるべく誰かと一緒になるようにしようということになった。

事情を知っているのは俺だけだから、基本的に俺がその役を務めるのだが。

それでしばらく様子を見て、ダメそうなら次の手を打とう。

 

 

 

俺と彼女は、会社を出る時は別のタイミングで出るようにしていた。

そして、先に出た方は会社のすぐ近くで待って、後で一緒に帰るという寸法だ。

こんなことをしているのは、露骨に付き合っていることを匂わせると他の社員に気を遣わせてしまうからだ。

 

数日後、会社の帰りに上司が同じ電車に乗り合わせてきた。

先に帰ったと思ったら、ポケGOでしばらく時間をつぶして待っていたようだ。

こちとら改札から遠い車両に乗るようにしているのに、彼女を見つけるとわざわざ車両を移動して来るのだった。

 

しかし、俺が一緒にいられるのは住まいの都合で2駅までだ。

俺が降りた後、上司はまた彼女を飲みに誘っていた。

それから、LINEをブロックされたことに対して、「俺がもっと積極的にいかなかったから怒ってたんだよね」という明々後日方向の発言もあったようだ。

恋は盲目とは本当によく言ったものだな。

 

それからまた別の日、上司が帰り際に彼女に紙切れを手渡してきた。

俺が見ている目の前で。

確認してみると、そこに書かれていたのは「機嫌直して」だった。

LINEブロックされている分際で彼氏ヅラか、コイツは。

とりあえず、紙切れは俺がビリビリに破いて捨てておいた。

 

他にも、電車で隣に座ってきて脚を触ってくる、「LINEのブロックを解除して」と耳打ちしてくる、彼女が会社から出たのを見たらとっとと仕事を終わらせて走って追いかける等の大変キモい言動があった。

それ完全にストーカーだからね。

 

 

 

どうにも事態が悪化しているので、次の手を打つことにする。

メールで彼女から直々にお断りの意思表示をしてやるのだ。

お断りメールの内容は大体こんな感じだ。

 

プライベートでメッセージをいただいていますが、そういった連絡をされるのは負担です。

申し訳ありませんが、今後も個人的に連絡を取り合うのは控えさせてください。

  

なるべく穏便に事を済ませたい。

これで解決すればいいのだが……まあ無理だろうな。

 

さて、返ってきたメールは。

 

すぐには気持ちが切り替わらず、モヤモヤしています。

ご立腹なされるのは重々承知の上で身勝手なお願いではありますが、以前のように負担はかけないので、もう一度つながってもらえませんか?


いやいやいやいや、違う違う。何も分かってねえ。

ビジネスメールってのは本当面倒くさいな。

オブラートに包んでやったせいで何も伝わってねえ。

 

怒ってんじゃない。嫌がってんだよ。

プライベートに踏み込んでくるのがそもそも迷惑なんだよ。

 

予想通りの期待していない反応ではあったが、上司はその後体調を崩して大人しくなった。

精神的なものがどうとか言っていたから、たぶん曲がりなりにもお断りメールの効果はあったのだろう。

 

 

 

その年の会社の忘年会。

幸か不幸か、俺と上司はくじ引きで同じテーブルになった。

彼女は(何らかの力が働いたことにより)無事離れた席になった。

 

俺は一切酒を飲まないのだが、彼女はかなり飲む方だ。

ものの数時間で、彼女はすっかりできあがってしまっていた。

俺を含め、周りの何人かはその様子をヒヤヒヤしながら見守っていたが、重役の方々は楽しそうに笑ってくれていた。

っていうか、この忘年会は彼女が幹事なんだが。

 

 

 

ひとまず、忘年会はすんなり終わった。

やっぱりというか、上司が二次会に誘ってきた。

どうせ断るだろうと思っていたら、彼女が行くと言い出した。

 

どう考えても、そんなハイリスクなことはしたくない。

しばらく大人しかったとはいえ、上司には間違いなく下心がある。

大丈夫なわけが無い。

俺は嫌な顔をしたが、彼女がわがままを言いだした。

 

「飲み足りないから行きたい。他の人も一緒なら大丈夫」

 

どう見てもすでに酔っぱらっているのだが、それゆえに手が付けられない。

彼女の酒癖の悪さを侮っていた。

今無理に止めても、確実に周りの人に変な目で見られてしまうだろう。

仕方なく、俺も付いて行くことにした。

 

二次会の飲み屋に着くと、上司が隣の席に彼女を誘導してきた。

彼女が酔っぱらっているのを良いことに、完全に調子に乗ってやがる。

俺のイライラはすでにメーターを振り切っているのだが。

 

結局、俺はほとんど喋らず、お通しとソフトドリンク1杯だけで済ませた。

というか食べられる気分ではなかった。

 

小一時間で飲み屋を出て、お開きとなった。

彼女はごきげんだが千鳥足だ。

 

駅までの帰り道、こともあろうに上司が彼女と手を繋ぎだした。

俺は負けじと、彼女の腕を掴んだ。

上司がやたらと引っ張るせいで振りほどかれそうになったが、決して離さなかった。

これ以上、上司に好き勝手させてたまるか。

一緒にいた他の先輩方から見るとかなり異様な光景だったと思うが、もうそんなことは気にしていられない。

 

駅に着くと、各自解散になった。

そこでようやく上司が彼女の手を離したかと思うと、不意に彼女に顔を近付けてきた。

彼女が悲鳴をあげたため、それは未遂に終わったが。

どう見てもキスしようとしてたよね。

 

正直、殺意が湧いた。

これが「俺の女に手ェ出すな」っていう感情なのか。

シラフでなければぶん殴っていたかもしれない。

 

その後、酔いが醒めた彼女から電話がかかってきた。

さすがに危機感が無さすぎるため、しっかり叱っておいた。

ついでに、以降一年間は外でお酒は飲まないように言いつけた。

酒好きの彼女にとってはかなり辛いことなのは百も承知だが、彼女自身のためだ。

束縛しているみたいで、本当は俺も嫌なのだが。 

 

 

 

年が明けると、上司のセクハラは下火になった。

上司の娘が近々結婚するとのことで、その準備に追われてそれどころじゃないようだ。

まあその話を毎日のように聞かされるため、それはそれで鬱陶しいが。

 

とは言え、上司は普通に彼女に話しかけてくるし、飲みに誘ってくることもあった。

どうやら、勝手に許されたと思っているようだ。

 

 

 

年に2回、俺の会社では部長と面談する機会がある。

日頃感じていることや今後の目標のことを話し合うのだ。

 

ここで俺が彼女と付き合っていることがバレた。

時々、俺が彼女と一緒に出退勤しているのを見かけられていたからだ。

思わず「あー、あのあえーと、ぉぅぇ」というコミュ障反応をしてしまった。

我ながら情けない。

 

「もう少し周りに気を遣え」


と言われてしまった。

 

別に日頃からイチャコラしていたわけではない。

けれど、それでも不快に感じられたのだろう。

 

それから、最近仕事中によくお手洗いのために席を外していることを指摘された。

「ストレスで……」と言い訳してみると、その原因を聞かれた。

……バレてしまったものは仕方ない。

こうなりゃヤケだ。上司のセクハラ問題もバラしてしまえ。

どうせ話したところで、何か手を打ってくれるわけでもないんだ。

 

その場で思いつく限り、ただの悪口にならないように慎重に言葉を選んで話した。

が、部長の反応はよろしくなかった。


要約すると、「セクハラのような問題はよくあることだから、そんなことでお腹壊さないようにしろ」という感じ。

 

そっか。

俺のメンタルが豆腐なのが悪いんだな。

俺は周りに気を遣えていなかったんだな。

もっと上手く話せるようにならないといけないよな。

その日はかなり落ち込んだ。

 

翌日もずっと、面談でのことが頭から離れなかった。

けれど、よくよく考えてみると、俺は何も悪いことはしてないのではないか?

 

別にこの件を社内で言いふらしたわけではない。

上司に対して個人的な感情で強く当たったこともない。

仕事は仕事と割り切って、上司が関わる仕事も素直にこなした。

自分、彼女、上司の立場も考え、周りに迷惑をかけないように平和的に解決しようとしてきた。

彼女が挫けてしまわないよう、励まし続けていた。

 

……だんだん腹が立ってきた。

そもそも悪いのは上司だろうが。

それなのに上司には何のお咎めも無し。

俺や彼女だけが嫌な思いをして、それで周りに気を遣えだと?

ふざけんなよ。

 

部長に言いたいことを言ってやる。

……でも直接話すとコミュ障が暴発するから、メールにしよう。

 

数日かけて内容を考えて、部長にメールを送った。

 

面談の際、私の拙い説明では上手く伝わらなかったかと思いますが、セクハラ問題は深刻です。

彼女はこの件で会社を辞めるかどうか本気で悩んでしましたし、そういったネガティブな理由で辞める(辞めさせられる)ようであれば、私も辞める所存です。

 

ちなみに、総務の○○さんにはすでにこの件は話してあります。

私が彼女と一緒に(駅~会社間だけですが)出退勤していたのはセクハラ対策(○○さんからのアドバイス)です。

 

この件に関して会社側が何かしらの対策をしてくれるということは期待していませんし、問題を大きくしたいわけでもありません。

せめて自分たちでできることをやっているつもりです。

ご不快な思いをさせてしまったのであれば申し訳ありませんが、何卒ご理解いただけますと幸いです。

 

これに対してはそれなりに理解を示してくれたようで、「いつでも相談してください」という旨の返事はもらった。

まあ相談することはないだろうが。

 

その後、彼女は部署異動になったため別のフロアになった。

一応断っておくが、彼女が元々志望していた部署への異動であり、別にセクハラのせいではない。

これによって、事実上セクハラ問題は収束した。

結局上司にはお咎め無しなのだが、逆恨みされても面倒だし、何もしてこないならそれに越したことはない。

 

 

 

会社にとって、トカゲのしっぽになるのは俺や彼女なのだ。

 

どうしても辛かったら、辞めても良かったのかもしれない。

でも、辞めた後どうするとか、周りへの配慮とか、自分の変な噂が立てられないかとか、心配になるから辞めるに辞められないと思う。

 

だから俺たちはこの件を大ごとにはせず、地道な方法を取った。

最善の結果が得られたかどうかは分からない。

ただ、何もしなかったよりはよっぽど良かったろう。

 

女性諸君。

一度サシ飲みしたとか、LINEを送ったらちゃんと返してくれるとか、いつでも笑顔で対応してくれるとか、それだけで気があると勘違いする男もいる。

 

まさか自分が。

まさかあの人が。

なんて思わない方が良い。

 

自分の物差しだけで人を判断してはいけない。

おかしいと思ったら、信頼できる人に相談だ。

それと、酒の量はちゃんとセーブしような。

 

男性諸君。

一度サシ飲みしたとか、LINEを送ったらちゃんと返してくれるとか、いつでも笑顔で対応してくれるとか、それだけで気があると勘違いしてはいけない。

 

残念ながらそれは社交辞令だ。

ましてや、おっさんが若い子を口説こうものならパワハラにもなりえる。

大ごとにされなかっただけマシと思え。

そして、失った信用は二度と取り戻せないと思え。

デバッガーになりたいと思っていた

壊リスというゲームをご存知だろうか。

今は亡きFlash Playerのフリーゲームだ。

かつて、俺はこのゲームを文字通り四六時中やっていた。 

 

俺は善意で、というか勝手にこのゲームのデバッグもしていた。

事あるごとに不具合の報告なんかを作者のM.E.氏にお知らせしていたのだ。

紆余曲折は割愛するが、まあそんなこともあって、M.E.氏とは日常的にチャットするような仲になった。

 

ある日、いつものように不具合報告をしていると、M.E.氏にチャットで

 

デバッグの才能あるよね」

 

と言われたことがあった。

俺はその自覚は多少あったが、常々自己評価の低い人間なので、自信は無かった。

でもそう言われると嬉しかった。

 

それからというもの、俺はデバッガーになりたいと思うようになった。

あまり理解されないだろうが、デバッグの作業が楽しかったからだ。

俺は大学ぼっちで暇だったから、アルバイトで探してみようと思った。

 

「デバッガー アルバイト」でググってみると、デバッガーを募集している会社がいくつか出てきた。

ほとんどが東京か大阪だった。

俺は滋賀の実家住みだったから、行けるとしてもせいぜい大阪周辺だ。

※デバッガーのアルバイトは守秘義務の都合で会社に通勤する必要がある。

 

履歴書の郵送が必要なところは面倒だったので、会社のHPの応募フォームから簡単に応募できるところを探した。

そうして、合計4社に応募してみた。

どうせ倍率が高くて自分は当たらないだろうな、と軽い気持ちで。

 

 

 

数日後、応募したうちの1社から電話で連絡が来た。

採用面接の連絡だった。

俺は人生で初めて履歴書というものを書いた。

まったく、きったねえ字だな……。

 

ちなみに、他の1社からも一度連絡があったが、「大学生はダメ」という理由でお断りされた。

募集要項にはそんなこと書いてなかったのに……。

 

面接当日、電車で会社へ向かった。

会社自体はそれほど有名ではないが、結構有名なゲームの開発にも携わっている老舗の会社だ。

めちゃくちゃ緊張する。

 

遅刻するといけないと思って早めに出たが、予定よりかなり早く到着してしまった。

さすがに気が引けたため、会社の周辺をうろついて時間を潰した。

 

いよいよ面接の時間が迫ってきた。

俺はいかにも"ちょうど今着きましたよ"感を出しながら、会社の自動ドアを開けた。

そして、受付の女性に声をかける。

 

「あ、あの、デバッガーのアルバイトの面接で来たんですけど」

 

声がうわずってんなぁ。

名前を伝えると、少し待たされた後、エレベーターの方へ案内された。

エレベーターめっちゃ狭い……。

 

エレベーターを降り、会議室で待つように言われた。

会議室で一人待っていると、面接官……と言うにはかなりラフな格好の人が来た。

一体何を訊かれるんだろう……と身構えていたが、それっぽい質問と言えばスマホは持っているか」ということくらいだった。

スマホの基本的な操作が分かるのであれば、それで良かったらしい。

当時のスマホの普及率はそれほど高くなかったが、俺はなぜか親に買い与えられて持っていた。

 

で、なぜこの質問をされたのかというと、仕事の内容がスマホのアプリのデバッグ作業だったからだ。

基本無料で、一部有料コンテンツのあるタイプのソシャゲのアプリだ。

そのソシャゲ自体はすでにリリースはされていて、俺の仕事はそのソシャゲの来週のイベントに関するデバッグ作業となる。

なお、今回の作業期間は5日間だけだ。

 

その後は誓約書にサインして社員証をもらい、開発室の場所を案内されて終わり、という感じだった。 

なんだか最初から採用確定だったようだ。

その日はそれだけで帰ることになった。

 

 

 

初出社の日。

またしても、かなり早めに到着してしまった。

今回はそんなに遠慮する必要も無いので、とっとと会社の裏口のカードリーダーに社員証をかざして扉を開ける。

エレベーターで上の階へ行って、開発室の前でまた社員証を使って扉を開ける。

社員の人に俺の席を指示され、そこでしばらく待つことに。

 

初日の最初の仕事は、ゲームの仕様の理解や不具合報告のやり方といった基本的な作業を覚えることだった。

検証用のスマホを渡され、それを使ってしばらく遊んでみた。

まあ遊んでみた、と言ってもデバッグモードで数値やフラグをいじり放題なので、ゲーム性は皆無なのだが。

俺はソシャゲをやったことはなかったが、普通にゲーマーではあるので、特に難なく仕様を覚えた。

 

午後からの仕事は、いよいよデバッグ作業だ。

試験項目書に従って動作を確認していくだけなので、まあ言ってしまえば誰でもできる作業だ。

俺はこういうチマチマした作業が好きだ。

 

こうして初日の作業が終わり、2日目、3日目も同じように作業を進めた。

不具合報告も何件かしたが、俺の手際が良かったせいで3日目の午前中には一通りの作業が完了してしまった。

ちゃんとやったのか少し疑われてしまったが、これでもちゃんとやったのだ。

なんなら指示されていた以上やっていた。

試験項目書では100回施行するように指示されていたのを、それでは少ないと思って300回施行してみるとかしていた。

 

暇になってしまったので、残りの期間はフリーデバッグをするように指示された。

フリーデバッグというのは、気になるところを自由にいじってみて不具合が無いか検証する作業だ。

ある意味いつも壊リスでやっていたことなので、それこそ俺が一番得意としているところでもあった。

 

今回はすでにリリース済みのソシャゲなわけで、基本的には完成されているわけだが。

俺はここでも何件か不具合を見つけてしまい、それを報告することになった。

一応言っておくと、俺のデバッグの才能がおかしいだけで、ゲームの質が悪かったわけではない。

 

こうして、初めてのデバッグのアルバイトは終了した。

ネット上では「デバッガーのアルバイトはきつい」などという書き込みも見かけていたが、俺は全然そんなことは感じなかった。

またやりたいと思った。

 

 

 

これが良かったのかたまたまなのか分からないが、その後も何度か同じ会社でデバッガーのアルバイトをした。

まあ説明の手間が省けるから、同じ人を雇うのが楽なのだろうけど。

 

ある程度規模が大きいアプリになると、複数人のバイトで作業を分担することもあった。

ガラケーのゲームアプリのデバッグをしたこともあった。

 

やがて、社員の人からあだ名で呼ばれるような仲にもなった。

むしろ、あだ名でばっかり呼ばれるようになったせいで、本名を知られてないっていう……。

 

一番規模の大きい作業だったのは、俺が最後に携わったスマホのソシャゲアプリだった。

そしてこれは、最初にデバッグをしたソシャゲの続編のアプリでもあった。

つまり新規開発となるわけで、まだ世の中に一切出ていないものとなる。

開発期間は3か月を予定されていて、俺の雇用期間もアプリのリリースまでとなっていた。

 

デバッグのバイトは基本4人体制で行われた。

俺はその開発の最初から最後までデバッガーとしてバイトをしていたが、俺以外は1~2か月程度の短期間の契約でバイトをしていた。

同年代の大学生の子もいれば、結構年上のおじさんもいた。

 

そして開発期間は3か月を過ぎた。

……要するに、3か月では終わらなかったのである。

何度も何度も、これでもかと言うくらいに仕様変更があったのだ。

 

そのせいで、バグが出るわ出るわ。

キャラクターの頭部が表示されなくて首無しになったり、敵の討伐数がアンダーフローしたり、特定の手順を踏むと画面が操作できなくなったり、チュートリアルで進行不能になったり、メモリエラーで強制終了が発生したり……。

バグの半数以上は俺が見つけたものだった。

 

開発予算の都合でバイトにはあまり残業が無かったが、正社員(特にディレクターとプログラマー)は阿鼻叫喚していた。

「これが世に言うデスマーチってやつか……」

と思っていた。

 

俺は他のバイトたちが先に帰ってしまう中、残業代が付かないギリギリの時間まで作業していた。

さっさと切り上げれば、1本早い電車で帰れるのに。

デバッグのチームリーダーの姐さん(正社員)は

 

「開発が遅れてるからって、そんな気を遣わなくても大丈夫ですよ」

 

なんて言って、遅くまで作業する俺を心配してくれたが、

 

「俺はデバッグを好きでやってるんすよ。なんなら給料なんかなくても、タダでも喜んでやりたいくらいっす」

 

と笑顔で返していた。

俺にとって、ここはデバッグという自分の才能を思う存分発揮できる聖地だった。

 

 

 

実はこの時の俺はもう就職活動の時期だった。

俺は悩んでいた。

 

俺はデバッガーになりたいと思っていた。

その才能も十分にあることが分かった。

それは違いない。

 

デバッグを専門とする会社があることも知っている。

そういうところに就職したいとも思っていた。

でも、それでいいのか。

 

デバッグというのは、確かに開発で必要な作業だ。

しかし結局のところ、それ自体は新しいものを何も生み出さない。

どんなに頑張っても、マイナスを0にするための作業でしかないのだ。

それがネックだった。

 

本当は、何かを創る立場になりたかったのだ。

 

 

 

さて、一方ソシャゲの開発はというと。

開発期間は1か月延び、2か月延び、最終的に3か月延びてようやくリリースされた。

サービス開始の瞬間は、正社員もバイトも皆で盛り上がった。

実のところ、リリース直前にまでエラー落ちする致命的なバグが発見されたりと、てんやわんやではあった。

まあそのバグも俺が見つけてしまったやつなんだけども。

 

リリースと同時に雇用期間は一旦終了し、その後は一応俺も普通にそのソシャゲをプレイヤーとして遊んでいた。

デバッグで散々プレイしただけに、内容はすべて把握しきっているのだが。

ちなみに、クレジットタイトルにはデバッガーとして俺の名前も載っていた。 

 

2か月後、そのソシャゲのイベントのデバッグでまた会社に呼ばれた。

ところが、それから間もなくあと1か月でサービスが突然終了することになった。

俺がそれを知ったのは、会社へ向かう電車の中。

ゲーム内のお知らせだった。

 

あれだけ地獄のように開発が進められていたのに、その開発期間よりも短い期間でサービスが終了してしまうのか。

世知辛い。

 

サービス終了時のメッセージ表示のデバッグも俺がやった。

特にこれといった問題も無く順調に作業は完了し、俺の雇用期間は終了した。

 

 

 

俺はその後もデバッガーになりたいという気持ちに揺れていて、就職活動ができていなかった。

そうして煮え切らずにいたところ、とうとう大学の就職課から呼び出しを食らった。

あまり乗り気ではなかったが、翌日就職課に足を運んだ。

 

就職課の担当のおじさんに渋々事情を話すと、他の職業を探すように諭された。

まあそりゃそうだろう。

俺もそう思っているし。

 

デバッガーなんてほとんどがバイトだ。

運良く正社員になれたとしても、その給料で食っていけるかどうかも怪しい。

それに、そんな中途半端な覚悟では、後々もっと辛くなるだろう。

 

他の職業……。

一応俺は大学では機械工学を専攻していたから、工業系の仕事か。

あるいは、デバッグの仕事を否応なしにできるであろう仕事、プログラマーか。

 

大学に来ている求人から、その2種に絞って仕事を探してもらうことにした。

何か行動しないといけないとは思っていたから。

 

大学4年の12月、俺はやっと就職活動を始めた。

 

 

 

俺はデバッグの才能をなんとか就職活動に活かしたいと思って、履歴書の"趣味・特技"の欄に「ゲームのデバッグ」と書いた。

たぶん、そんなことを書いてる奴なんてそういないだろう。

面接で話題にできるかもしれない。

 

その思惑は結構当たることになった。

が、いかんせん受け答えが下手すぎた。

コミュ障すぎてアドリブが全然利かない。

時には面接中にデバッガーへの未練が露呈してしまい、それがきっかけで圧迫面接みたいになってしまうこともあった。

 

このままではマズい。

ちゃんと対策しなければ。

 

俺はそれまでの面接で受けた質問や、ネットで調べた「就職面接でよくある質問」を洗い出した。

そして、それらの回答を文章にして書き出し、暗記することにした。

文章にまとめたことで、いろんな質問にも応用できるようになった。

 

よく考えたら、俺は人並み以上にそこそこ人生経験が豊富だ。

面接で話すネタには困らないじゃないか。

 

 

 

就職活動を始めて1か月後。

ほぼ同じタイミングで3社から内定をもらった。

1社は工業系の会社、2社はIT系の会社だ。

もう選り好みしている時期ではないので、どれかを選ばなければならない。

 

俺はプログラミングのプの字も分からないド素人だったが、それでもデバッグの才能を活かせるならプログラマーを選びたかった。

となると、IT系の会社の2社のどちらかだ。

 

俺は内定したことを誰よりも先にM.E.氏に報告した。

もとをただせば、きっかけを与えてくれた人だからな。

ついでに、どちらの会社が良いか相談してみて、技術屋の観点から意見をもらった。

それから親、就職課の担当のおじさんにも内定の報告をしておいた。

 

俺はIT系の会社のうちの1社を選んだ。

そして残りの2社には、電話で内定辞退の連絡をした。

 

 ……プログラマー

俺も、バイトの時に見たあのプログラマーのように、地獄のような日々を送ることになるんだろうか。

 

 

 

当時の俺はそんなことを考えていた。

今は……プログラマーとしてそれなりの技術を身に着け、それなりに楽しい日々を送っている。

 

不具合はよく出してしまうが、不具合の対応はいつもかなり早い。

その点、デバッグの才能は活かされている。

まあゲームプログラマーではないが、それでも何かを創る仕事だ。

 

もしデバッガーになっていたら、と思うこともある。

それはそれで、楽しく過ごしているかもしれない。

でも今はもう未練は無いし、なんだかんだ今が最適解だった気がする。

もう二度と酒は飲まない

俺には物心ついた頃からの友達がいた。

小学生の頃までは、いつも彼と一緒に遊んでいた。

俺の方が勉強や運動はできたけど、彼の方がゲームソフトをたくさん持っていたし、俺よりもゲームが上手かったのがちょっと羨ましかった。

お互いちょっと変わり者で、負けず嫌いなところもあったけど、喧嘩はほとんどしなかった。

俺は彼のことを親友だと思っていた。

 

小さな町だったから、小学校の同級生は皆同じ中学校に入った。

別の小学校だった子も入ってくるから、クラスも増えた。

彼とはクラスが別々になってしまい、疎遠になってしまった。

俺は人見知りでこそあったが、なぜか人当たりは良かったから新しい友達もできた。

 

 

 

ある時、学校の帰りに別の友達に連れられて、久しぶりに彼の家に行くことになった。

というのも、彼が不登校になっていると聞いたからだ。

 

家に着くと、おばさんは喜んで上がらせてくれた。

とりあえず会ってはみたものの、何か気まずい雰囲気だった。

連れてきてくれた友達との会話の内容から察するに、不登校の原因はいじめだった。

 

「何があったの?」

 

って聞こうか。

 

「学校行こうよ。」

 

って言おうか。

 

「また何かされたら助けてあげるよ。」


って無責任な発言をしても良いのだろうか。

考えてはみたものの、俺は詳しい事情を知らなかったし、下手なことを言って傷付けてしまうのが怖くて、そういうことは何も言えなかった。

久しぶりに次の休みに遊ぶ約束だけ取り付けて、その日は帰った。

 

それからというもの、また小学生の頃のように彼と遊ぶようになった。

時には仲の良かった友達も加えて遊びに行った。

そうしていれば、そのうち戻ってきてくれると思っていた。

 

 

 

結局、彼は不登校のまま中学校を卒業した。

俺は地元の公立高校へ進学し、彼はニート状態になった。

 

その一年後、彼は定時制の高校へ進学し、いつの間にか新しい友達も作っていた。

近所に住む、一つ年下の子だ。

その子を含めた三人で一緒に遊ぶようになった。

 

遊ぶ約束を取り付けるのはいつも俺からだった。

中学生の頃に一緒に遊んでいた他のメンツは次第に疎遠になった。

 

俺は勉強嫌いだったから、高校からの成績はガタ落ちしていた。

部活は真面目に続けていたものの、センスがなかったから、ろくな活躍はできなかった。

人見知りが悪化してコミュ障になっていて、クラスでは浮いていた。

クラスに友達はおらず、一言も言葉を発しない日もザラにあった。

それに加えて家庭環境の諸事情もあり、甚大なストレスを抱えていた。

休日には逃げるように彼の家に遊びに行った。

 

 

 

俺は大学に進学した。

と言っても成績は良くなかったから、大学のランクはかなり下げた。

高校の時のクラスメイトは誰一人いない大学だ。

 

片道二時間半もかかるのに、わざわざ実家から通った。

その理由は色々あるが、彼と遊べなくなるからというのも理由の一つだった。

 

俺は彼を支えているという自負を少なからず感じていたが、それと同時に惰性で関係を続けているような気がしていた。

同じ部屋にいるのにお互い会話も少なく、別々のゲームをしているということが多くなった。

 

なんとなく、彼からの風当たりが強くなってきていた。

俺が何を言っても否定的な感じで応対された。

俺は少しずつ、面倒くさいと感じるようになっていた。

 

 

 

ある日、麻雀で負けたら罰ゲームをしようという提案を彼が持ちかけてきた。

罰ゲームとは、酒を飲むことだった。

それも、アルコール度数のかなり高いやつだ。

彼ともう一人の友達の方は飲み慣れていたけど、俺は飲んだことがなかったから、罰ゲームとしては不公平な気がした。

……まあ未成年なのだが。

 

とは言え、ここで断っても空気が悪くなるだろうと思い、仕方なく受けて立った。

負けなければ良い。そう思っていた。

 

結局その日、俺は一度も負けなかった。

しかし帰り際、彼は

 

「せっかくだから一杯くらい。」

 

と俺に酒を勧めてきた。

どうでもいい相手だったら、適当に誤魔化して断ることもできたと思う。

でも彼が傷付くことを恐れて、断れなかった。

 

コップに注がれたそれは、少量ではあったが、顔を近付けるだけで酷い臭いがした。

後に引けなくなった俺は彼の様子を伺いながら、しばらくして覚悟を決め、一口飲んだ。

 

焼けるように喉が熱い。

自分の口から異臭がする。

気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 

まだコップには半分残っている。

勢いで残りを飲んだ。

再び喉が焼けた。

呼吸が荒くなり、吐き気がした。

 

俺はそのままその場を後にした。

目の焦点が合わず、体は思うように動かなかった。

親に顔を見られるとマズいと思い、家に帰ってすぐに自室へ逃げ込んだ。

 

もう二度と酒は飲まない。そう決意した。

こんな思いはしたくない。

 

少量だったからか、翌日には酒は抜けていた。

 

 

 

その次の週末、俺は懲りずに遊びに行った。

彼はまた、罰ゲームを賭けて麻雀をしようと持ち掛けてきた。

 

結局、この日も俺が負けることはなかった。

彼はそれが気に入らなかったのか、UNOに変更しようと提案してきた。

さすがにUNOでは運要素が強いのだから、どうしても負ける確率が高くなる。

そこで俺は「罰ゲームは酒の代わりになるもので」という条件で承諾した。

何回かやって、とうとう俺が負けた。

 

罰ゲームに用意されたのはブラックコーヒーだった。

少し口を付けてみたが、苦すぎて喉を通らない。

 

俺がこれを飲まなければ、次の勝負が始まらない。

しかし、とても飲めたものではない。

 

「んー、飲めねえよぉ。こんなの」

 

と、冗談っぽくごねてみたが、彼は苛立ち交じりに突っぱねた。

先週のこともあって、なんだか急に嫌気が差してしまった。

 

なんでコイツに付き合っているんだろう。

そういえば最近コイツと一緒にゲームで遊んだっけ。

今までコイツから遊びに誘われたことってあったっけ。

コイツ、俺のことをどう思っているんだろう。


……コイツは本当に友達なのか?


それから、無言のまま数時間が経過した。

もう罰ゲームのことなど、どうでもよくなっていた。

俺は小さくため息を吐いて、怒るように、哀しむように、呆れるように、

 

「帰るわ」

 

とだけ言い残し、見送られることもなく静かに帰った。

その日を最後に、俺から連絡することはなくなった。

 

事実上の、絶交だ。

 

 

 

俺は大学でも友達を作ることはしなかった。

もう独りでいることにも慣れていた。

 

彼と絶交してから一年ほど経った頃、携帯に彼からの着信履歴が残っていた。

俺は自分からは連絡したくなかったから、待つことにした。

 

あの時のことを、今更謝罪するつもりだろうか。

もし謝罪があったら、それを許すべきだろうか。

もう一度、関係をやり直した方が良いのだろうか。

期待と不安でいっぱいになった。

 

その日のうちに、もう一度着信があった。

恐る恐る、俺はその電話を取った。

 

「もしもし」

 

「もしもし。久しぶり」

 

「久しぶりだね。何か用?」

 

お互い緊張気味だった。

最初に切り出されたのは、最後に遊んだ日のことだった。

 

「あの時は、ごめん。」

 

予想以上に素直な謝罪で、拍子抜けしてしまった。

その後、今まで触れていなかったことを色々話した。

 

まず、いじめに遭った時のこと。

俺が聞くのを避けていた話を、彼自身から話してくれた。

 

いじめの内容はここには書けないが、彼は執拗にいじめを受けていた。

それに耐えかねて、一度いじめっ子に仕返しをした。

しかし、仕返しをしたことがバレて、クラスの担任の先生に呼び出しを食らった。

椅子に座らされ、説教をされた。

言い訳をすると引っ叩かれ、椅子から転げ落ちた。

彼が不登校になったのはそれからだ。

 

彼はいじめっ子と担任の先生を憎んだ。

 

それから、彼はもう一度いじめっ子に仕返しすることを決めた。

今度は誰にもバレずに、確実に仕返しするため、念入りに計画を立てた。

 

仕返しは見事成功した。

彼はそれで満足したという。

 

彼は一通り話し終えた後、俺に

 

「どう思う?」

 

と聞いてきた。

 

もちろんいじめは良くないが、仕返しをして良いものだろうか。

相手が陰湿であれ、暴力的であれ、やられたらやり返すことが正しいだろうか……。

俺ははっきりした答えを出せなかった。

 

彼は定時制の高校に入学する前、面接でこのことを話したらしい。

そこで面接官に言われたのは、

 

「よくやったね。」

 

だった。

説教でも罵倒でもなく、返ってきたのは称賛だった。

初めて理解してくれる人がいた。

彼はそれで入学を決めたのだという。

 

俺にはできない回答だと思った。

たとえ世間一般には道徳的ではないことだとしても、彼は勇気を振り絞って仕返しをしたのだ。

俺は彼の気持ちを何も理解してあげられていなかった。

 

それから、彼が不登校になった後に俺が初めて家に訪ねた時のことを話した。

その時、彼は俺に何か言ってほしかったのだという。

 

事情を知らないのなら、聞いてあげれば良かった。

ありきたりな言葉でも、励ましてあげれば良かった。

今更後悔した。

 

その後も長らく一緒に遊んではいたが、俺がそういうことを何も言わないから、彼は日に日に不信感を募らせていた。

 

彼はずっと、俺のことを「いつもクラスの中心にいる子」だと思っていたという。

言われてみれば、確かに彼の知る限りの俺はそうだったのかもしれない。

小学生の頃の俺は勉強も運動もできたし、おどけたりドジを踏んだりしてクラスの皆を笑わせる子だった。

だから、俺が高校生の頃に友達ができないことを愚痴った時も、俺が誇張しているだけだと思っていたようだ。

 

俺は彼を親友だと思っていたが、彼はそうではなかった。

彼にとっての親友は、あの一つ年下の子だった。

その子はちゃんと彼の話を聞いてくれたし、彼の良き理解者だった。

親友とは、そういうことだ。

 

一方、俺は彼を支えられていないどころか、傷付けていた。

彼は俺のことを友達だとすら思っていなかった。

俺は彼に謝罪した。

 

話の最後に、彼の方から遊びに誘ってくれた。

仲違いしたままは嫌だったし、俺はためらいながらも承諾して、電話を切った。

 

 

 

次の週末、久しぶりに彼の家に遊びに行った。

彼の親友も含めた三人で、一緒にゲームもしたし麻雀もUNOもした。

もちろん、酒も罰ゲームもナシで。

 

そして、帰り際には彼が見送ってくれた。

 

「またね」

 

とは言わなかった。

 

それから彼とは一度も会っていないし、連絡も取っていない。

それがお互いのためだと思ったからだ。

 

もう二度と酒は飲まない。再びそう決意した。

酒を飲まない理由を聞かれた時、彼のことを思い出せるからだ。

 

親友にはなれなくても、俺は彼の理解者の一人でありたい。

空腹って何だっけ

いつからか、俺は食欲が無い。

 

ここで言う"食欲が無い"ってのは、「具合が悪くて食べられない」という意味ではない。

文字通り、「食欲という概念が無い」のだ。

 

食欲が無いと言っても、別に食べることに嫌悪感があるわけではないし、一応頑張れば満腹まで食べることもできる。

好きな物は美味しいと感じるし、嫌いな物は不味いと感じることもできる。

ただ、食べたいと思うことが無い。

 

そしてもう一つ問題なのが、空腹をほとんど感じないことだ。

腹が鳴ってようやく空腹であることに気付くし、空腹自体に不快感も無い。

食欲旺盛でつい食べ過ぎてしまう人からすれば羨ましい話なのかもしれないが、弊害があるのだ。

  

その弊害というのが、食事によって得られる満足感、幸福感が人より著しく低いことだ。

たとえ空腹であっても、空腹という至高のスパイスも感じられない。

なんなら食事が面倒くさいまである。

そのせいで、俺はついつい食事を抜いてしまう。

 

残念ながら俺はびっくり人間ではないため、しばらく何も食べなければ体調を崩すし、ずっとほったらかせば最悪たぶん死ぬ。

現状でも適正体重から10kgほど軽いため、本当はもっと食べた方が良い。

一時期はさらに5kg以上軽かったから、これでもマシになった方だけど。

※現在身長179cm/体重60kg

 

今のところ、とりあえず体調を崩すの嫌だからということで、俺は義務的に食事を取るようにはしている。

病院行けって話なのかなあとも思うけど、正直全然危機感は無い。

っていうか何科なんだろう。

 

精神的なことが原因ってのもあるかもしれない。

今はそうでもないけど、昔はそうだったわけで。

こころこわれる

祖父は真面目でしっかりした人だった。

祖母は世話好きの優しい人だった。

 

子供の頃、仏壇の前で祖父の膝の上に座ってお経を聞いていた。

全然分からなかったけれど、お経の最後に仏壇の鐘を鳴らすのが楽しかった。

 

たまに、テレビを見ながら祖父に肩叩きをしてあげていた。

お小遣いに10円を貰って、それをこつこつ貯めていた。

 

今でもそうだが、俺はお金には執着が無いにもかかわらず、貯金するのが好きだ。

俺にとって、それが頑張った証だったから。

 

祖母は俺を連れて、よく近所を散歩してくれた。

近所のお婆さんには「可愛い」だの「また大きくなった」だのと毎度のように言われ、人見知りの俺はいつも恥ずかしがって祖母の後ろに隠れた。

 

俺は当時は泣き虫だったから、姉にいじめられてよく泣いていた。

祖母はいつも俺を庇ってくれた。

 

 

 

祖父は定年後は畑仕事をしていた。

実家の所有する土地には飛び地があり、祖父は畑の手入れをしに、時々農作業用の軽トラを運転することがあった。

 

ある日、祖父は軽トラのバッテリーをあげてしまった。

ライトを消し忘れてしまったせいだ。

それが二度、三度と続いた。

 

歳が歳だし、物忘れがひどくなってしまったのだろう。

畑のことは諦め、人様に迷惑をかける前に父は祖父の免許を返納させた。

 

ある日、祖父はコピー機を使って何かを印刷しようとしていた。

観察してみると、コピー機から出てきているのは真っ白な印刷用紙ばかりだった。

どうやら、コピー機の使い方を忘れてしまったらしい。

それに気付いた祖母が声をかけると、祖父は少し声を荒らげ、印刷を諦めた。

 

家族が共有で使っているペンやハサミが無くなることがあった。

決まって祖父の部屋で見つかった。

こっそり元に戻しておいても、またいつの間にか祖父の部屋に移動していた。

 

たまに新聞が切り抜きされていることがあった。

それも古新聞ではなく、当日の新聞だ。

祖父は新聞の中に自分の名前と同じ文字を見つけると、その周辺の記事を切り取っていた。

自分に関係する記事だと思っていたようだ。

 

 

 

いつからか、祖父は家族を名前で呼ばなくなった。

祖父が祖母を呼ぶときは「おい!」と、祖母に声をかけられたときは「なんや!」と怒鳴った。

 

祖父は思うように言葉が出なくなり、「あれ」を多用するようになった。

祖母は祖父が何を言いたいのか理解できず、二人はよく喧嘩するようになった。

俺が止めようとしても、二人ともまったく聞く耳を持たなかった。

 

俺は祖父母にはなるべく関わらないようにした。

当時高校生だった俺は、勉強のストレス、部活のストレス、否応なしにくる反抗期のストレスに、祖父母に対するストレスまで抱えきれなかった。

 

俺は祖父に対しては無視を決め込んだ。

どうせ会話が成り立たないのだから、下手に応答したってこじれると思ったからだ。

 

 

 

ある日、祖母がガンで入院した。

すでに末期ガンで、余命は半年ほどと聞かされた。

そのことは祖母自身には知らされなかった。

 

祖母はよく「帰りたい」と嘆いていた。

 

俺は何度か見舞いに行ったが、痩せ細っていくのが目に見えて分かった。

やがて身体もほとんど動かせなくなったが、声をかけたり手を握ったりすると、か細い声で返事をしたり頷いたりしてくれた。

 

祖父は時々、家の中で祖母を探し回るようになった。

深夜に徘徊することもあった。

 

祖父は鏡に向かって話しかけるようになった。

祖父の機嫌が悪い時は、鏡と喧嘩していた。

 

 

 

ある日、祖父は行方不明になった。

家族総出で探し回り、俺は家で留守番した。

 

俺がボソッと「あんな奴、帰ってこなくてもいいのに」と呟くと、姉に叱られた。

姉貴は嫁いでからは普段実家にいないくせに、よく偉そうなことが言えたものだ、と思った。

 

警察や町の人の協力もあり、家から1kmほど離れたところで見つかった。

それからは、常に玄関に鍵をかけられるようになった。

 

祖父はアルツハイマー認知症だった。

それでも、この時点では要介護認定を申請しても軽度と判定され、デイサービス等も受けられなかった。

 

 

 

祖父はあまり怒らなくなった。

というより、皆が怒らせないように気を遣うようになった。

 

祖父は自分で服を着られなくなった。

シャツを足に穿き、ズボンに腕を通そうとしていた。

 

母が着替えを介護するようになった。

 

祖父は自分でご飯が食べられなくなった。

箸の使い方が分からなくなったのだ。

 

母が食事を介護するようになった。

 

祖父は自分で用が足せなくなった。

朝になると家中に糞尿が垂れ流されていることもあった。

 

母がトイレを介護するようになった。

 

 

 

祖父はもう、家族が家族であるということなど理解できていなかった。

 

俺は祖父のことを「糞を製造するだけの動く肉塊」と認識するようしていた。

そうでもしなければ堪えられなかった。

 

自分の心が壊れているのを感じた。

それでも、人を殺すより、自分が死ぬより、マシだと思った。

 

いずれ俺より先に死ぬのだから、その時を待てばいい。

時間が解決してくれる。

それだけが支えだった。

 

母もそうだったのかもしれない。

母は毎日のように愚痴をこぼし、一人の時には叫ぶこともあった。

いつか母が倒れてしまうのではないかと思えた。

  

俺はこの時大学生だったが、わざわざ片道2時間半もかけて実家から通っていた。

俺がそんなことをしていたのは、母の愚痴を聞くためというの理由の一つにある。

母の苦労を理解してやれるのは、俺しかいなかったからだ。

 

再び要介護認定を申請すると、ようやく認定がおりた。

週に1~3日程度だが、デイサービスも受けられるようになった。

 

祖父は嫌がることなくデイサービスに行った。

仕事に行くような感覚だったのかもしれない。

 

 

 

ある日、祖母が亡くなった。

余命宣告は半年だったが、実際は1年ほどだった。

 

その日は雨だった。

 

俺は病院へ向かう車の中で、大学に忌引き届を出さないといけないことばかり考えていた。

 

病室に入ると、叔母と従兄と姉が大泣きしていた。

俺は居心地の悪さを感じて、ベッドに横たわる祖母の遺体を一瞥しただけですぐに病室を出た。

 

父と母は病室の外で静かに涙を流していた。

俺は病院の駐車場に降りしきる雨をぼーっと眺めていた。

 

俺が泣くことはなかった。

我慢していたわけではない。

むしろ、少し肩の荷が下りたようにすら感じた。

 

 

 

祖母の葬式の日、祖父はニコニコしていた。

とても無邪気な笑顔だった。

 

叔母に連れられて棺の中の祖母の顔を見た祖父は、そのままよだれを垂らしてしまった。

「ああ、こいつはもう人間じゃないんだな」と改めて感じた。

 

ここでも、俺が泣くことはなかった。

 

 

 

ある日、祖父が入院した。

 

俺が次に祖父を見たのは、祖父の通夜の日だった。

入院してから間もなく亡くなったのだ。

葬儀は祖母の時と同じ葬儀場で行われた。

 

祖父が軽トラのバッテリーをあげてしまったあの時から、もう10年が経過していた。

 

ようやく解放された。

嬉しかった。

文字通り、飛んで跳ねて喜んだ。

人生で最も嬉しかったと言っても過言ではないかもしれない。

 

それからの俺は、壊れた心の隙間を埋めるように人生を楽しんでいる。

ゲーム配信での指示コメって

当方、ニコ生にて長らくゲームを中心に配信を続けている者である。

それにちなんで、こんな話。

 

ゲーム配信における視聴者からの指示コメについて

 

以前より、俺の配信では概要欄に

指示、煽り、ネタバレ等はお控えください。

という注意書きをしている。

煽りとネタバレについては害悪なので語るまでもないが、指示については多くの人が"善意で"やってしまいがちなので、その辺を語っていきたい。

 

指示コメとは、

「この敵は○○が弱点だから××で攻撃すると良いよ」

「ここは○○を使うべきだよ」

「○○した方が効率が良いよ」

といったように配信者に指示やアドバイスをするコメントのこと。

  

まあ指示コメしたくなる気持ちは分かる。

プレイヤーが思うように動いてくれないと、もどかしく感じてしまうこともあろう。

上手くいかずに悩んでいるところを見ると、「このゲームのことを嫌いになってほしくない」と思って、指示コメをしてしまうこともあろう。

「俺はこのゲームのこと詳しいんだぜ」ってアピールしたくなることもあろう。

 

しかし、個人的には指示コメされることは嬉しくない。

俺としては、ゲームはすべて自分の頭で考え、自分なりの答えを見つけながらプレイしたいのだ。 

正解や最適解だけがゲームの面白さではない。

たとえグダグダしてしまっていても、大人しく見守るなり、そっ閉じしてもらった方が良い。 

 

ただし、例外もある。

つまり、指示コメしてほしいケース。

そんなことを言ってしまうと、ワガママと思われてしまうかもしれないが。

逆に言えば、俺が視聴者の時には"こんな状況なら指示コメをしようと思う"っていう話でもある。

例を挙げると、以下のようなケース。

  • 指示やアドバイスを求めている(許容している)ことが明示されているケース
  • システムの設定で問題が改善できるケース
  • ゲームが進行不能(進行困難)に陥ってしまう恐れがあるケース
  • (オンラインゲームにおいて)著しく他のプレイヤーへの迷惑行為になるケース

 

指示コメは配信者によって、また時と場合によって「どの程度はOKでどの程度はNG」のラインがまちまちだ。

俺の場合は原則指示コメNGなので、上記はある意味"最低ライン"だろう。

もし指示コメするか迷った時は配信者にまず確認すべきだし、確認が取れないなら何もしない方が良い。

また、指示コメをするにしても、語気が強めになったり煽り気味になったりすると、配信者や他の視聴者から嫌われるので気を付けよう。

たとえ常連でも。

 

それと、配信者側も気を付けるべきことがある。

ゲームで上手くいかないことがあると不機嫌になってしまうことだ。

もしそれが癖になってしまっていると、親切な視聴者はなおさら「間違ったことをして機嫌を損ねてしまわないように指示してあげよう」という気持ちが働いてしまう。

ゆえに、指示厨が湧く原因になってしまいがちだ。

 

謎解きが分からないのは、ゲームの制作者の意図と共鳴できなかっただけだ。

強敵に勝てないのは、自分の立てた戦略が合わなかっただけだ。

要は、正解や最適解にたどり着くまでのプロセスは人それぞれであり、それが早いか遅いかは"運"だ。

ありとあらゆるゲームが上手くできるわけじゃない。

得意なゲームもあれば苦手なゲームもある。

そういう風に、割り切れるようにしたいところ。

自戒も込めて。

配信で使ってるSEまとめ

配信のコメントで使えるようにしているSEの一覧をまとめておこう。

 

・SE名

入力文字列

のフォーマットで記載していく。

こういうSE欲しいとか、おすすめのSEとかあったら、教えてくれると悦ぶ。

 

・あ~ん♡

あ~ん/ア~ン/あーん/アーン

 

・上手に焼けましたー!(モンハン)

上手に焼けました/じょうずにやけました/上手にやけました/じょうずに焼けました

 

・チーン(仏壇の鐘)

チーン/ちーん

 

・デデーン(ガキの使いっぽいやつ)

デデーン/ででーん

 

・ファミマ入店音

ファミマ/ファミリーマート/ふぁみま/わこつ

 

・にっひっひー さぁ覚悟!(わグルま! ヨウコ)

にっひっひ/さあ覚悟/さぁ覚悟

 

・それじゃあ 行ってくるよー!(わグルま! ヨウコ)

それじゃあ行ってくるよ/それじゃ行ってくるよ/それじゃいってくるよ/行ってくるよ/いってくるよ

 

・いっただっきまーす!(わグルま! ヨウコ)

いっただっきまーす/いただきます

 

・お腹減ったよー ご主人様ー(わグルま! ヨウコ)

お腹減ったよ/お腹へったよ/おなか減ったよ/おなかへったよ/お腹減った/おなかへった

 

・わグルま!(わグルま! ヨウコ)

わグルま/わぐるま

 

・たっだいまー!(わグルま! ヨウコ)

たっだいまー/ただいま

 

・あはっ 何か用かな?(わグルま! ヨウコ)

何か用かな/何かようかな/なにか用かな/なにかようかな

 

・いっくよー!(わグルま! ヨウコ)
いっくよ/行っくよ

 

・よしっ やっぱりこれだよね(わグルま! ヨウコ)

やっぱりこれだよね

 

・ふっふふーん 今日もふさふさ~(わグルま! ヨウコ)

今日もふさふさ/今日もフサフサ/きょうもふさふさ/きょうもフサフサ

 

・勝利のファンファーレ(FF)

ファンファーレ/やったぜ

 

・レベルアップ(DQ

レベルアップ

 

・びっくり音(メタルギアソリッド

!?

 

・わーぉ♡

わーお/わーぉ/ワーオ

 

・ごまだれ~(ゼルダの伝説

ごまだれ

 

・テーレッテレー(ねるねるねるね
テーレッテレー

 

・ジャジャーン

ジャジャーン

 

・ドンドンパフパフ

ドンドンパフパフ

 

・歓声と拍手

歓声/拍手

 

・放送開始チャイム

開始チャイム

 

・放送終了チャイム

終了チャイム

 

・自主規制音(ピー)

(ピー)/自主規制

 

・正解音

正解/ピンポン

 

・不正解音

不正解/ブブー

 

・チリーン

チリン/チリーン

 

・グサッ

グサッ

 

・グキッ

グキッ

 

・ホーホケキョ

ホーホケキョ/ウグイス