こなごころ

きもちをつづるばしょ

ワクチンの副反応で救急車呼んで病院に搬送された件

先日、某ウィルス君に対抗するためのワクチンを接種した時の話。

 

 

その日は金曜日で、仕事を早めに切り上げて接種会場へ向かった。

ワクチン接種は今回で3回目。慣れたものだ。

(ちなみに3回目ともすべてモデルナ製)

 

少し待たされた後、受付をして問診される。

大体2回目と同程度の副反応が出るとのことで、まあそれなら大丈夫だろうと思った。

2回目の時は翌日に朝から晩まで寝込んでたんだけど、耐えられないほどでもなかったし。

 

後はワクチンを接種して、15分ほど経過観察して退場。

この時は特に何ともなかった。

 

食欲は十分あり、晩飯にはパスタを食べた。

人の配信を観ながらゲームで時間を潰す。なんとも悠々自適。

そして深夜1時頃に就寝……したのだが。

 

なんだか全身がじんわり痛い。鈍痛とでも言うべきか。

寒気と頭痛がする。熱も上がってきてるようだ。少し息が苦しい。

昼寝してたわけでもないから普通に眠いはずなのに、全然眠れない。

2回目の時もしんどかったのは確かだが、こんなに眠れないもんだったかな……。

仕方ない。考え事でもして気を紛らわそう。

 

 

……結局一睡もできないまま、外が明るくなってきた。

かなり汗をかいているせいか、喉が渇く。

ふらふらと立ち上がり、冷蔵庫を開けてアクエリアスを取り出す。

一杯だけ飲んで、再びベッドに倒れこむ。

 

あー、身体が重い。

1分、1秒がとてつもなく長く感じる。

スマホで時間を確認すると、朝7時。

どうせ眠れやしないが、目を閉じる。

 

その時、突然全身に激痛が走った。

肺が締め付けられるように苦しい。呼吸が激しく荒くなる。

なんだこれ、吐き気か? いや、違うか?

よく分からんがヤバい気がする。

 

ベッドから転がり落ちて、ゾンビのごとく床を這う。

壁を支えにして、震えながら立ち上がる。

吐くなら、トイレまで行かねば。

そう思ったものの、キッチンの流し台のところまで来て、それ以上動けなくなった。

仕方ない。吐くならせめてここで吐くか。

 

呼吸がますます早くなる。

流し台に突っ伏して、胃の逆流を今か今かと待つものの、何かおかしい。

そもそも胃に何か残っている感じもしない。変だ。

その時、大粒の汗が鼻先を伝って落ちた。

……これ、吐き気じゃない。今、息が止まりそうになってるんだ。

 

ふと気付くと、手足が痺れて動かなくなっていた。

正確には、肘から先と膝から先。全く力が入らない。

 

いよいよヤバい。

本当に、マジで、ガチで、ヤバい。

不安とか恐怖とか、そんな生温いもんじゃない。

今感じられるのは、本能的に発せられている"生命の危機"の信号だ。

クソッ、こんなところで死んでたまるか。

まだやりたいゲームがいっぱい残ってる。やらなきゃいけない仕事もある。俺のことを大事に思ってくれる人もいっぱいいる。

走馬灯なんか流してやらんぞ。

絶対に、絶対に生き延びるからな。

 

今日は土曜日だ。

もしここで倒れてしまったら、たぶん月曜日に会社の先輩か上司が確認しに来るまで誰も気付かない。

早く、助けを、呼ばないと……。

 

なんとか一歩、足を動かした。

一瞬、目の前が真っ暗になってよろけたが、気合で踏みとどまった。

少しでも気を抜いたら、たぶん気絶する。

スマホはベッドの上だ。ほんの2mほどの距離。

そこまでは持ちこたえないといけない。

 

動かない手足を必死に引きずって、スマホにたどり着いた。

とりあえず、誰かに知らせないと。会社のチャットに何か書き込もう。

指先が硬直して感覚は麻痺している上に、大量の汗で画面が滑って上手く文字が打てない。

 

たすけて

副反のうでしにそう

 

誰でも良いから気付いてくれ……!

なるべく早く! 頼む!

……って、いや待て。 今、休日の早朝だぞ……?

こんな時間に誰が気付くってんだ?

悠長に誰かの反応を待ってる場合じゃない。

今打てる最善手。俺が助かる道は。そうだ、救急車。救急車、呼ぼう。

ここで呼ばなきゃ、いつ呼ぶんだ。

こういう時のために、税金払ってんだろ。

 

俺はチャットを閉じて、電話アプリを起動した。

生まれて初めて、1、1、9、と入力した。

もはやスマホを持つこともできない。

置いたスマホに頭を乗せる形で通話する。

 

「もしもし、聞こえ、ますか。ハァ……ハァ……救急車を、お願い、します」

 

「場所はどちらですか?」

 

良かった。繋がった。

一言発するごとに呼吸は乱れるが、俺は冷静に応答した。

 

「どういった症状が出ていますか?」

 

「ワクチンの、副反応で……身体が、痛くて、手足が、痺れて、動けません。息が、苦しくて……熱が、あって……寒気が、あって……頭痛も、あります……」

 

その他、ワクチンを打った会場や時間についても聞かれ、俺は息を切らしながら答えた。

 

「救急車は10分ほどで到着します。玄関の扉の鍵は開けられますか?」

 

マジかよ……動けないっつの……。

でも、扉開けないと、救急隊員が入れないもんな……。

 

「なんとか、頑張ってみます……」

 

「では、このまま通話は切らずに、開けてきてください」

 

いくら辛かろうと、ここには俺一人しかいない。

自分の命がかかってるんだ。やらねば。

獣のように唸って、気合で身体を起こし、気合で立ち上がり、気合で玄関へ向かった。

今、俺を動かしているのは、「絶対に生きる」という確固たる意志だけだ。

 

扉に付いているサムターンのツマミを回そうとするが、指が一切動かないために思うように掴めない。

硬直した人差し指と中指でツマミを挟み、腕ごと強引に回すようにして、なんとか鍵を開けた。

そしてまたベッドまで戻り、スマホで通話を続けた。

 

「玄関、開けました……!」

 

「分かりました。到着まで、もうしばらくお待ちください」

 

「ありがとうございます……!」

 

数分後、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえた。

もうすぐだ……。

 

 

まもなく扉の向こうから足音が聞こえ、扉がノックされた。

 

「いらっしゃいますかー?」

 

「開いてます……!」

 

俺は全力で声を出した。

しかし聞こえなかったのか、もう一度扉がノックされた。

俺は這いつくばって玄関に近づき、

 

「扉、開いてます……!!!」

 

と声を振り絞った。

そこで玄関の扉が開いて、俺はようやく、ほんの少し安堵した。

 

3人の救急隊員に介助されながら、症状を確認された。

手足が痺れている原因は、過呼吸だったようだ。

過呼吸によって血液中の二酸化炭素濃度が下がり、血管が収縮して手足が痺れてしまったらしい。

息を吐くことに集中して、ゆっくり呼吸するように言われた。

 

体温を測ると、38.5℃だった。

そりゃ苦しいわけだ。

 

そういえば、会社のチャットに助けを求めたままほったらかしだ。

心配する声が何件か来ていた。

救急隊員の人に頼んで、「救急車呼びました」と書いてもらった。

 

さて、ここで俺が次に取れる選択肢は3つ。

  1. タクシーを呼んで自力で病院へ行く。
  2. 近場の知り合いに薬を買ってきてもらう。
  3. このまま救急車で病院に搬送してもらう。

 

が、まだ身体はほとんど動かせない。

タクシーに乗る以前に、アパートの階段の上り下りもままならない。

となると、自力で病院へ行くのは無理だ。

 

そして今は休日の早朝。

一番近場の知り合いとなると同じ会社の先輩になるが、もし来てもらうとしても、どんなに早くても1時間以上かかるだろう。

とても耐えられそうにない。

 

というわけで、救急車で病院に搬送されることとなった。

幸い、空きのある病院がすぐに見つかった。

財布とスマホと靴だけ持って、あとは着の身着のまま。

救急隊員3人がかりで運んでもらい、俺は救急車に乗せられた。

 

救急車といえども、道が悪いと結構ガタガタ揺れる。

身体が揺らされると、その分苦しい。

けどもうすぐだ。我慢、我慢。

 

 

10分ほど揺られて、病院に着いた。

担架からベッドに移されて、体温やら脈やらを確認される。

すると、近くで看護士らしき人同士の談笑する声が聞こえてきた。

こちとらめちゃくちゃ苦しみ悶えてるとこなんだが? と一瞬思ったが、裏を返せばそんなに緊迫した状態でもないってことか……? と謎の安心感を覚えた。

 

念のため、血液検査もすることになった。

採血するのは腕ではなく、鼠径部(足の付け根)のあたり。

つまり、ズボンとパンツをずらされ、己が愚息が半分ほど白日の下に晒されるわけだ。

ま、実際はそんなことを気にしてる余裕なんて微塵も無くて、「やるなら一思いにやってくれ」と思っていたんだが。

 

そういえば、若い女性の看護師の一人が、

 

「濃いですね……」

 

などと言っていたのが聞こえたが、一体何のことだったんだろうか。

 

なお、採血のための注射はクソ痛かった。

針が刺さった瞬間、ドラゴンボールで悟空が腹パン食らった時みたいな声で悶絶した。

ついでに痛すぎて足がつった。

しかも注射は2回分しないといけない。俺は涙目で耐えた。

 

ともかくこれで検査は終わり、ベッドでゆっくり休ませてもらえることになった。

まだ手足は痺れて動かないが、呼吸は徐々に落ち着いてきた。

解熱の点滴も打ってもらって、やっと回復の兆しが見えてきた気がする。

 

 

今何時だろう。

搬送される前にしっかり聞いてなかったけど、ここってどこの病院だ。

ちゃんと帰れるかな。

会社の人にも心配かけてるだろうから、現状報告しておかないとな。

親にも一応連絡しておいた方が良いかもしれん。

お金、いくらかかるかな。

ちょっとトイレにも行きたいな。

と、ベッドで寝ながら色々考え事をしていた。

 

点滴液が落ち切った頃、ようやく指先が少しずつ動かせるようになってきた。

解熱の効果で気分も楽になってきたようだ。

 

まもなくして、血液検査の結果が知らされた。

結論から言えば、過呼吸が原因で手足が痺れてしまっているのは確かで、それ以外に異常は見られなかったとのこと。

そして、時間が経過すれば回復して元に戻ると。

ひとまず安心だ。

 

ついでに問診票を書くように言われた。

ボールペンは辛うじて掴めはするが、まだ文字を書くには厳しい状態なのだが。

歯を食いしばりながら一生懸命書ききったものの、3歳児が書いたようなギリギリ読めるかどうかの字になった。

(結局、読み取れない部分は後で確認された。)

 

 

この日の病院はそれほど忙しくなかったらしく、十分に回復するまで好きなだけ休ませてもらえることになった。

手足の感覚は次第に戻っていき、少し痺れは残っていたものの、普通に歩けるようになるまでに回復した。

病院に到着してから2時間半ほど経っていた。

 

付き添ってくれていた看護士さんに「ありがとうございました」と一言お礼を言って、窓口で会計を済ませて処方箋を貰って無事退院となった。

ちなみに会計は¥24,580で、保険料を差し引いた実際の支払額は¥7,370だった。

 

そういえば、自宅に帰ってから気付いたのだが、処方箋に書かれていた俺の名前の漢字が間違っていた。

問診票に書いた文字が汚過ぎたからな……。

 

 

思い返してみると、久々に大変な目に遭ったな。

正直、ワクチンの副反応を甘く見ていた。

と言っても、ここまで重い症状が出たのはかなりレアケースだとは思うが。

 

俺としては、こんな記事を書いておいてなんだが、「だからワクチンを打つのはやめておいた方が良い」と言いたいわけではない。

解熱剤や鎮痛剤をケチって事前に用意しておかなかった俺の落ち度の問題もある。

つまるところ、「打っても大丈夫な人は打つべきだし、油断せずに薬は用意しておいた方が良いし、打ちたくない人は打たなくて良い」って話。

 

それと、俺が「救急車を呼ぶ」という判断ができたのは、つい最近同じ会社の人が自宅でいつの間にか亡くなっていたということがあったからだ。

一人暮らしをしていると、いざという時に頼れるのは自分だけ。

本当にヤバい時は自分で救急車を呼ぶ判断をしても良い。

命あっての物種って言うしな。